作成された全ての公正証書に執行力があるのではなく、公正証書のうち、「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの」に限り、執行力が認められます。
このような公正証書を民事執行法上、執行証書といい、次の要件を満たさないと執行証書としては取り扱われないことになります。
(1)債権者の債務者に対する請求が金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求であること。
⇒ 債務者が支払うべき金額又は給付すべき数量が一定であることが求められ、確定した金額又は数量が公正証書に規定されること、利率と期限が公正証書に規定され、公正証書それ自体から金額を算出できること等が必要となります。なお、この要件については、「金額の一定性」等と呼ばれ、次のような請求権が金額の一定性を満たすか否かが問題とされます。
【金額の一定性が問題となる請求権】
a.将来発生する請求権
遅延損害金のような停止条件付債権、さらには始期付債権については、条件が未成就である場合又は期限が未到来である場合であっても、既に公正証書作成時に債権が現存しているため、金額の一定性を満たすとされます。
b.保証契約に基づく求償権
保証契約に基づく求償権のうち、事前求償権については、金額の一定性を満たすとされますが、事後求償権については、将来保証人が代位弁済した額に応じてその求償額が変わり、公正証書作成時点で金額が特定できず、金額の一定性を満たさないとされます。
c.与信契約に基づく貸金債権
将来の一定期間にわたり、一定額を限度として反復して金銭を貸し付ける場合、公正証書上において、貸付限度額は、規定されているものの、現実に債務者が負担することになった債務額までは規定されていないため、与信契約に基づく貸金債権については、金額の一定性を満たさないとされます。ただし、与信契約に基づき現実に債務者が負担することになった債務額を規定した執行証書を別途作成すれば、その限りにおいては、金額の一定性を満たすことになります。
d.変動金利による利息債権
当初〇年間の利率を〇%とし、それ以後の利率を長期プライムレートに連動させるとった形で変動金利を規定する場合、公正証書の文言から具体的な利率を明らかにすることができないため、金額の一定性の要件を満たさないとされます。
(2)公正証書に債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されていること。
⇒ 一般的に強制執行認諾文言又は執行受諾文言と呼ばれ、債務者による訴訟上の意思表示として取り扱われます。そのため、例えば、未成年者が債務者となる場合の執行証書については、未成年者が法定代理人の許可を得て独立して営業を行うことができる場合等を除き、親権者が法定代理人となって公正証書を作成する必要があります。
(3)請求権が他の請求権と混同しない程度に特定されていること。
⇒ 不当な強制執行を防止する観点から、対象となる請求権の当事者、発生原因、給付内容等を特定することになります。